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研究テーマ「臓器設計技術の開発」

臓器が機能を発揮するには、細胞や細胞外マトリックスが適切な空間配位をとって微細構造を構築することが重要です。再生生物学研究室では、スフェロイドやオルガノイドと呼ばれるような、いわゆる「細胞凝集体」の内部微細構造を自在に設計するための技術群を開発しています(図1)。特に、肝臓や膵島などの臓器機能にどのような微細構造が必要なのかを、再構成的な手法で検証しています。細胞や細胞外マトリックスを構成単位としてデザインした臓器は、それぞれ以下の臓器デザイン1〜4に示したような目的に利用することができます。自由な発想に基づき、ユニークな方法を用いてデザインされた臓器は、我々が予想しないような価値を持つこともあります。これまで人類は、木や石、金属などを材料としてものづくりを行い、産業を発展させてきました。同様に、細胞や細胞外マトリックスを材料として臓器をデザインするという活動は、新たなものづくり産業を勃興させるポテンシャルを秘めているのです。なお、当研究室では、スフェロイド作製や3次元培養に関するご相談を受け付けております。また、共同研究や受託研究も盛んに行っています。お気軽にご連絡ください。
多様なデザインをもつスフェロイド



臓器デザイン1:接着力の低い細胞によるスフェロイド作製
スフェロイドを作製するために、しばしば用いられるのはハンギングドロップ法やU底の96ウェルプレートです。しかし、これらの方法では、細胞の接着力が低い場合はスフェロイドを効率よく作ることができません。我々は3%メチルセルロース(MC)培地を用いて、細胞の接着力に依存せずに細胞を強制的に凝集させる方法を開発しました(図2)。市販のヒトiPS細胞由来肝細胞のように接着力がかなり弱く、一般的な方法ではスフェロイドが作れないケースでも、MC培地の中で迅速に凝集させたのちに一晩ほど培養することで、取り出しても壊れないスフェロイドを作製することができます(図3)。この手法を用いることで、市販のヒトiPS細胞由来肝細胞のCYP3A4やCYP2B6、CYP1A2といった代謝酵素の発現レベルを、ヒト初代肝細胞を48時間平面培養したもの(CYPの誘導実験などで一般的に使われる状態)と同等まで高めることができました。
スフェロイドをデザインする技術

ヒトiPS細胞由来肝細胞



臓器デザイン2:高い機能をもつ膵島様組織のデザイン
膵β細胞は平面的に培養されている状態よりも三次元的に細胞凝集体を形成している方が、グルコース刺激に対するインスリン分泌活性(GSIS)が高いことが知られています。臓器デザイン1で述べたMC培地を用いて、細胞凝集体の中に一定の比率で膵α細胞を混入すると、膵α細胞が膵β細胞の外側に自発的に移動・配位し、GSISが増加することを見いだしました。このような自発的な細胞の移動には、膵β細胞の表面に存在する糖鎖が関与していることがわかってきました。また、GSISの変化は膵α細胞が存在するだけでは不十分であり、特定の細胞配位をとることが重要であることを示唆するデータも得られています。このような凝集体(擬似膵島)を作製する際に、ハイドロゲルビーズを混入させて流路構造を持たせると、GSISがさらに向上することも明らかとなりました(図4)。細胞機能を高めることができれば、実験や移植に用いる細胞数を削減することができます。同じ細胞でも「組み立て方」次第で性能が変わるというのは、とても面白い現象です。
高機能な膵島のデザイン



臓器デザイン3:1型糖尿病を再現した膵島様組織のデザイン
ヘパラン硫酸とヒアルロン酸は体の中でよくみられる多糖類であり、細胞外マトリックスの一種です。健康な膵島の内部にはヘパラン硫酸が多く含まれており、ヒアルロン酸はほとんど見当たりません、しかし、1型糖尿病になるとその関係が逆転し、膵島の内部にはヒアルロン酸が多くみられるようになります。我々は、マウス膵島を単離してバラバラの細胞にしたのちに、臓器デザイン1で述べたMC培地を使ってこれらを再度凝集させました。その際、ヘパラン硫酸やヒアルロン酸をスフェロイド内部に充填しました。MC培地は細胞だけでなく 多糖類などの細胞外マトリックスも凝集させることができます。ここでは、多糖類を充填することで、健康な状態の膵島と1型糖尿病の状態の膵島を再構築することを試みました。その結果、細胞外マトリックスを充填していない再構築膵島を基準としたとき、ヘパラン硫酸を充填した膵島ではグルコース刺激に対するインスリン分泌活性(GSIS)が高く、ヒアルロン酸を充填した膵島ではGSISが低くなるという結果が得られました(図5)。これは、1型糖尿病において、ヒアルロン酸が直接的に膵β細胞のインスリン分泌活性を抑制している可能性を示しています。細胞は自分をとりまく微小環境によって、機能を変えるのです。我々のスフェロイド作製技術は、細胞外マトリックスが細胞機能に及ぼす影響を検証する目的に適しており、さまざまな疾患や加齢の状態を再現できると期待されます。
多糖類による膵島機能の変化



臓器デザイン4:カジュアルな肝臓移植を実現するための臓器デザイン
我々は多種多様な臓器デザインを検討する中で、肝臓を液体化する可能性を検討しています。この液体化した肝臓、すなわち「液体肝臓」は、従来の臓器移植の概念を変えるにとどまらず、ゲノム情報に縛られない自分らしいライフスタイルを実現する方法になるかもしれません。その実態は、代謝酵素を封入した赤血球です。赤血球は低張液で処理するとバーストして赤血球ゴーストとなりますが、それをもう一度等張液に浸すと、周囲の物質を取り込んだ状態で元の形に戻ります(図6)。2020年には、液体肝臓開発を目的としたクラウドファンディングにも挑戦しました。2021年のメドテックグランプリKOBEではロート賞を受賞するなど、徐々に注目を集めています。コンセプトの詳細は、日本生物工学会誌に掲載されている原稿や、タンデムマス通信に掲載されている原稿を読んでいただけると幸いです。
赤血球への代謝酵素の封入法


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